そのとき、彼の眼に、異様な光景が映ってきた。
 道路の向う側に植えられている一本の贋アカシヤのすべての枝から、おびただしい葉が一斉に離れ落ちているのだ。
 風は無く、梢の細い枝もすこしも揺れていない。葉の色はまだ緑をとどめている。
 それなのに、はげしい落葉である。
 それは、まるで緑色の驟雨であった。
 ある期間かかって、少しずつ淋しくなってゆくはずの樹木が、一瞬のうちに裸木となってしまおうとしている。
 地面にはいちめんに緑の葉が散り敷いていた。

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