最終面接まで進んだ憧れの企業から「益々のご健闘をお祈りいたします」という言葉とともに不採用の通知を受け取った息子。ゴールデンウイーク前にいわゆる「持ち駒」がなくなる状態になったが、今思うと、それは無理もないことだった。

 就活当時、息子がアプローチした会社を把握していなかったが、今改めて聞いてみると――エントリーシートを提出したのは10社ほど。平均が23 社というから、その半分以下しかない。その会社名を聞くと、TBS、テレビ朝日、テレビ東京などの在京キー局をはじめとし、芸能プロダクション、音楽制作 会社、教育関係企業などなど。たぶん何万人もエントリーしそうな人気企業しか提出していなかったのである。

 しかも、息子の企業選びのポイントは、自分の関心のある「お笑い・音楽・教育」のみだった。「お笑いも音楽も人を幸せにするから携わりたい」と 息子。中学や高校の悩み多き時代に、その2つが随分心の支えになったらしい。さらに、大学2年のときに始めた塾の講師の仕事がことのほか面白く、「子ども に教えるのは面白い、熱くなれるものを見つけた!」と、大学3年の1月頃から、教育や教師も視野に入っていた。

 息子いわく、「この3つの好きな仕事以外やる気がしなかった」そうである。

 好きなことをする、そこに絞るというのは、学生のやりがちな行動ではあるが、それはまた就活に失敗する典型なパターンでもあるのだ。

 そのパターンというのは企業のことをよく知らないということに尽きる。

 息子のみならず学生は驚くほど企業を知らない(いや我々親世代だって学生のときには同じだったかもしれないのだが)。ここ数年、女子学生を対象 に講演する機会が多いのだが、その際、「皆さんの知っている会社はどこですか?」と必ず聞くようにしている。そうすると、判で押したようにまず名前が挙が るのは、「キリン」「アサヒ」「サントリー」というビール飲料メーカーである(女子学生はビールが好きなんだろうか)。

 つまりテレビなどでよくCMを流している一般消費者向けの会社、BtoCの企業しか知らないのである。国内証券取引所に上場している企業ですら 約4000社ある。少しオーバーに言えば星の数ほど会社はある。でも、学生が知っている企業数といったらどうだろうか、せいぜい20社か30社ではないだ ろうか。

 ちなみに大学1年の娘に聞いたところ、最初に出た企業名が「日経」というのはご愛嬌(あいきょう)だが、挙がった社名は消費財メーカーを中心にジャスト15社。まるで、テレビのゴールデンタイムの提供枠を聞いているようであった。

 上場会社には、法人向け事業が主体のBtoB企業も多いが、そういった企業は消費者にCMを打つ必要がないため、学生の間の認知度は当然低くなる。
最終面接まで進んだ憧れの企業から「益々のご健闘をお祈りいたします」という言葉とともに不採用の通知を受け取った息子。ゴールデンウイーク前にいわゆる「持ち駒」がなくなる状態になったが、今思うと、それは無理もないことだった。

 就活当時、息子がアプローチした会社を把握していなかったが、今改めて聞いてみると――エントリーシートを提出したのは10社ほど。平均が23 社というから、その半分以下しかない。その会社名を聞くと、TBS、テレビ朝日、テレビ東京などの在京キー局をはじめとし、芸能プロダクション、音楽制作 会社、教育関係企業などなど。たぶん何万人もエントリーしそうな人気企業しか提出していなかったのである。

 しかも、息子の企業選びのポイントは、自分の関心のある「お笑い・音楽・教育」のみだった。「お笑いも音楽も人を幸せにするから携わりたい」と 息子。中学や高校の悩み多き時代に、その2つが随分心の支えになったらしい。さらに、大学2年のときに始めた塾の講師の仕事がことのほか面白く、「子ども に教えるのは面白い、熱くなれるものを見つけた!」と、大学3年の1月頃から、教育や教師も視野に入っていた。

 息子いわく、「この3つの好きな仕事以外やる気がしなかった」そうである。

 好きなことをする、そこに絞るというのは、学生のやりがちな行動ではあるが、それはまた就活に失敗する典型なパターンでもあるのだ。

 そのパターンというのは企業のことをよく知らないということに尽きる。

 息子のみならず学生は驚くほど企業を知らない(いや我々親世代だって学生のときには同じだったかもしれないのだが)。ここ数年、女子学生を対象 に講演する機会が多いのだが、その際、「皆さんの知っている会社はどこですか?」と必ず聞くようにしている。そうすると、判で押したようにまず名前が挙が るのは、「キリン」「アサヒ」「サントリー」というビール飲料メーカーである(女子学生はビールが好きなんだろうか)。

 つまりテレビなどでよくCMを流している一般消費者向けの会社、BtoCの企業しか知らないのである。国内証券取引所に上場している企業ですら 約4000社ある。少しオーバーに言えば星の数ほど会社はある。でも、学生が知っている企業数といったらどうだろうか、せいぜい20社か30社ではないだ ろうか。

 ちなみに大学1年の娘に聞いたところ、最初に出た企業名が「日経」というのはご愛嬌(あいきょう)だが、挙がった社名は消費財メーカーを中心にジャスト15社。まるで、テレビのゴールデンタイムの提供枠を聞いているようであった。

 上場会社には、法人向け事業が主体のBtoB企業も多いが、そういった企業は消費者にCMを打つ必要がないため、学生の間の認知度は当然低くなる。


■就職率バツグンのゼミの秘密

 ここで、この就活困難時代に、高い就職内定率を誇るあるゼミを紹介しよう。東京女学館大学国際教養学部の西山昭彦教授のゼミである。西山ゼミで はこれまで6年間で50人以上の卒業生を送り出したが、その95%が内定を獲得。2011年春に就職する4年生は9人中8人が、一部上場企業かそのグルー プ会社に採用が決まっているという。西山氏はかつて東京ガスの社内ベンチャーで新会社を設立し経営に当たり、経営学博士号を持つ経営学のプロである。

 しかし、失礼ながらいわゆる上位校ではないのに、なぜ、そんなに就職率がいいのか?

「一部上場企業はたくさんあるのに、学生が知っている企業は5%くらいに過ぎない。95%は知らない。知らない企業は存在しないも同様だから、就活しない。しかし、そこにいい企業が山いっぱいある。それを学生に発見させることが重要」と西山氏。

 「男子学生であれば金融、女性であれば化粧品会社にほとんどがエントリーする。しかし人気企業にエントリーするということは超満員電車に飛び乗 るようなもの。いずれ振り落とされてくたくたになり、初めに就活に挫折してしまう。でも、その満員電車の横をすいている電車が走っているのに、なぜそれに 乗らないのかということ。たとえば自動車メーカーは誰でも知っていても、上場企業がたくさんある自動車部品メーカーとなるとほとんどが知らない」

 リクルートワークス研究所の大卒求人倍率調査によると、これまで最も低かったのは、2000年3月卒の0.99倍。これは求人倍率が1を割り込んだ本当の氷河期と言える。

 2011年3月卒の場合、企業の求人総数(計画)は前年の72.5万人から58.2万人へと19.8%とマイナスになったものの、就職希望者は 45.6万人(前年より+1.9%)。厳しい経済環境が続き厳選採用を行ってはいるが、求人倍率は1.28倍となった。2010年3月卒の1.62倍より は低下したものの、2000年3月卒や1996年3月卒(1.08倍)ほどには、落ち込んでいないのだ。

 しかし、従業員規模ごとの求人倍率を見ると、5000人以上の大企業が0.47倍にもかかわらず、300人未満では4.41倍となっている。つまり、仕事は探しようによってはある。しかし、そこに規模間のミスマッチが生じている。

 知名度が高く規模の大きい企業に学生は群がる。しかしそれ以外に優良企業があることを学生に認識させるのが西山ゼミの特色だ。経済の授業では、 毎回、学生に日経新聞の記事を取り上げ感想を発表する宿題を出す。ゼミ生には『日経会社情報』を読ませ、学生の知らないたくさんの企業が存在していること を知ってもらう。西山氏は企業数百社の実態をこれまでヒアリングし、人脈も2000人を超える。そういう多様な企業の姿や企業人をゼミで紹介することで学 生の知見を広げる。

 西山氏によると、企業を選ぶ際、親も邪魔するという。

 「親も企業を知らない。株式投資をしていて広く企業を知る親がアドバイスするならまだしも、たいていの親は、歴史のあるブランド企業に子どもを受けさせたがる」

 人材コンサルタントの常見陽平氏も「ほとんどの親は商社やメガバンクに就職しろと言う」と口をそろえる。「楽天ですらダメ。ベンチャーなんてとんでもないという親が驚くほど多い。サイバーエージェントやミクシィすら知らないのが親の実態です」(常見氏)

 「たいていの学生はブランド企業を狙って落ち続けて挫折することになる。その結果、疲労困ぱいしてゴールデンウイーク前後に就活から離脱した り、秋に先送りしたりしてしまう。それではいけない。満員電車には乗らなければいい。いわばファーストではないセカンドマーケットを戦略的に狙うことが大 切なんです」(西山氏)


■身近にいた就活の「キーパーソン」

 息子もまさにそうだった。超満員電車に飛び乗り、そこを様々な段階で落ち続け、ゴールデンウイーク前にはいたくへこんでいたようだ。しかし持ち駒を失ってしまった息子は就職戦線から離脱せずに、ある女性に連絡を取っていた。

 それが近所に住むHさんである。教育関連企業に勤務しているHさんと私たち家族の付き合いが始まったのは、息子が赤ちゃんの頃にさかのぼる。

 89年に息子が生まれたとき、私は仕事と育児が両立できるか、とても悩んでいた。夫婦ともに東北出身でマスコミ労働者。東京に頼れる親戚はひと りもいなかった。運よく保育園に入れたとしても当時18時だったお迎え時間には間に合いそうになかった。保育園に迎えに行ってくれて、親が帰るまで預かっ てくれる二重保育をお願いする人が必要だった。

 そこでご近所や保育園に「生後9カ月の元気な男の赤ちゃんです。どなたか預かっていただけませんか?」と書いたビラを200枚ほどポスティングした(当時は、携帯電話もインターネットも普及していない時代だったのでこうするしかなかった)。

 そのときにたった1人だけ申し出てくれた方がいて、さらにその方に紹介されたのがHさんのお母さんだった。Hさんは当時小学5年だったが、自分 の家に毎日保育園からお母さんと一緒に“帰ってくる”息子を自分の弟のようにかわいがってくれた。Hさんご家族にはそれ以来10年近く二重保育をお願い し、親戚のように親しくお付き合いをさせてもらっている。

 息子のことをよく知っている、その「Hお姉ちゃん」が、息子の就活のキーパーソンとなった。

 Hさん自身は、まさに、どん底といわれた氷河期突入直後の2001年に大学を卒業して、人気企業のひとつである現在の会社に入った。面倒見のよさから、これまでも大学の後輩や知人の紹介などで20人くらいの学生の就職相談にのっていた。

 まず、Hさんから息子はエントリーシートの指導を受けた。

 エントリーシートは最初の就活の関門。企業側に送られる何千、何万というシートの中から「この学生に会いたい」と思わせる内容でないといけない し、面接のときの重要な参考資料となる。第一回で書いたように、主に「自己PR」「学生時代に力を入れたこと(略してガクチカ)」「志望動機」の3つから なるが、一番学生が間違えてしまうのが、「ガクチカ」だという(このガクチカも親世代にはあまりなかった項目かもしれない)。

 「学生は、華々しい成果を書かなくてはいけないと身構えてしまって失敗する」というのはエントリーシート指導の経験も豊富な昭和女子大学客員教授の福沢恵子氏。

 たとえば、学園祭実行委員長として何百人も率いて成果を挙げたとか、有名なコンクールで賞を獲得したとかそういうことを書かなくてはいけないと思ってしまうから、学生は「自分は何もしてない」「力を入れたことなんかない」とあわててしまう。


■エントリーシートの勘違い

 「一番自分がこだわりたいことを書く学生がいるが、それも失敗しやすいパターン。アルバイトで頑張ったエピソードを詳細に書いてエントリーシー トで落ちまくっていた学生がいた。その学生によくよく聞いてみるとゼミの研究のためにカンボジアで長期間のフィールドワークの経験があるという。どう してそれを書かないの?と尋ねたら、自分としてはアルバイトの方にずっと『力を注いだ』からそちらを書きたい、と。しかし、それはある意味『自己満足』に すぎない。企業側にとっては学生のアルバイト体験は凡百なものとしか映らないが、発展途上国での経験は評価される可能性が高い。エントリーシートでは『自 分のこだわり』よりも『企業が評価するのは何か』という採用側の視点を持つことも重要です。」(福沢氏)。

 息子の場合もまさにそうだった。Hさんに相談するまでは、エントリーシートのガクチカは、自分が所属していたサークルの廃部の危機をいかに努力して救ったかという、自分の中でインパクトの大きいエピソードを中心に据えていたが、Hさんにはピンとこなかった

 「それで何かほかにないの? ないの? と聞いていったら、学生だけでなく社会人のOB・OGやその子どもたちも参加したイベントを企画して成功したという。それ面白いね、いろんな世代の人と会 話してものをつくることだよね? それって、あまり他の人がやってないことだよね?それがいいよとアドバイスしました。それは幅広い世代の人と話せるというコミュニケーション能力の高さを 証明する事柄でしたから。企業側は、おっと思うでしょうね」(Hさん)

 なるほど。今の企業がコミュニケーションスキルを重視していることは連載2回目にも書いたとおりだ。

 一般論ではなくより具体的に。小さくてもいいから自分しか経験していないものを。『自分のこだわり』ではなく、『企業が学生に何を求めているか』と考える。

 「自分が何をしたいかだけに目を奪われず、誰のために、どんなお役に立てるかという視点を持つことが就活の基本姿勢です」(福沢氏)


■対話で見つけた自分の「軸」

 Hさんと話すことで、息子は就活で最も大事な自分の軸・コアな部分も再確認した。

 Hさんも就活を始めた当時は、テレビ局や広告代理店など華やかでかっこいい会社を受けまくった。だが、テレビ局も最終面接まで進むものの内定を獲得できなかった。

 「そういうときに友達と話したり、書き出したりして自分のやりたいことを整理したんです。記憶を掘り起こすというのでしょうか。そうしたら、私 は『子どもが好きだ』ということをすっかり忘れてたんですね。小さいときから母親が預かる子どもの世話を手伝っていた。それが楽しかったし、お母さんたち も信頼して母に預けてくれた。その経験から、親が安心して子どもを預けて相談できるような施設を日本全国につくりたいなと思ったんですね。自分の好きなこ とを自覚して、再び業界や企業の研究をした結果、見つけたのが今勤めている会社なんです」

 Hさんは息子に自分のケースを話しつつ、「塾でアルバイトしてるんだ。それは面白い? どういうところが面白いの?」と、何が、何が、と聞き出したという。

 そういう風に聞き出すと、たいていの学生たちは「実はね…」と話し出すという。
「その実は…が、就活では大事なんですよね」(Hさん)

 「実は、塾で自主的に補習したらすごくやりがいを感じた」

 「なんで?」

 「自分なりに努力して保護者と面談したり、子どもそれぞれに叱り方を変えるなど、その生徒に合った指導をしたら成績が上がって、親にも喜ばれてすごくうれしかった」

 「それはいいエピソードだよ! K(息子)しかしていない経験だよ。それが自分の強みなんだよ。先生が合うんじゃないの」
 当時を振り返り、息子はいう。

 「Hお姉ちゃんみたいなアドバイザーはいなきゃダメだと思う。就活には、自分を分析することが必要だけど、自分の力だけではなかなかできないから」

 Hさんとの対話を重ねて、息子は企業の就職ではなく、教師の道に進む気持ちを固めていった。  


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