2014年7月22日 日経新聞

 今月のテーマは「子育てとお金」について20代が考えておくべき基本的なお金のルールです。今回は「自分の老後準備」と「子どもの学費」はどちらを優先すべきか、です。

 戦後すぐに生まれた団塊世代は、親の生活水準がまだ高くなかったうえ、自分たちは経済成長の影響で経済的な豊かさを一気に手にした世代です。その勢いで親に仕送りをして支えつつ、自分の子どもをしっかり育てることができました。

 現在の20~40代の世代にとって「親も子も自分が面倒みる」はほぼ不可能です。幸い、親にはそれなりの資産や退職金、公的年金があるので、経済的に困窮することはあまりありません(特に会社員だった場合の公的年金は、夫婦で大卒初任給くらいの水準をもらえる)。

 もし親に毎月5万~6万円も送っていたら、自分の生活は成り立たないし、子どもを育てることは難しいでしょう。公的年金の充実は、家庭内の仕送り負担を大きく軽減してくれました(その分、年金保険料負担が増えたのもやむを得ないのです)。

 しかし、もうひとつのテーマが現役世代に残されています。「自分の老後の備え」です。「子どもの学費問題」と「自分の老後準備」を同時に考える、あるいは優先順位をつけることが重要課題です。

■老後準備、「子どもの学費負担終了後」ではうまくいかない

 何度も指摘しているとおり「子どもの学費負担が終わってから自分の老後準備スタート」という順位付けではうまくいきません。

 お金の問題は同時並行で考えるより、個別に検討するほうが対処しやすいのは事実です。「住宅購入の頭金をためる」「子どもの学費をためる」「自分の老後に備えて貯金する」と順番にこなしていけばシンプルに対応できます。しかし実際にそうはいきません。

 晩婚化と出産年齢の高齢化で、子の学費負担が50代後半まで食い込むことが一般的になりました。例えば我が家では、私が62歳になるまで子どもの学費負担が発生します。62歳から老後の貯金をスタートしても、おそらく間に合わないでしょう(もしもう1人子どもが増えれば65歳まで伸びます)。

 順番に対応するなら住宅頭金を30代にためて家を買い、40代に子どもの学費準備は終わらせて将来の負担に備え、50代以降は自分の老後の準備に専念しなければなりません。普通のイメージと比べて、かなりの前倒しが必要です。「結婚前」から家の頭金や子どもの学費をためてもいいくらいです。そうでなければ、子どもの学費と自分の老後資金は同時並行で準備するしかありません。

■奨学金をとらせたら、自分の老後の経済的援助は求めない覚悟を

 もし子どもの学費を親がすべて負担するケースで、自分たちの老後の経済的準備が不足することが明らかであり、老後に困窮する心配があればどうすべきでしょうか。つまり、自分の老後準備と子どもの学費負担が両立できないということです。

 心情的には子どもを優先したくなります。しかし、なんとか育てた子どもは、親に仕送りするほど豊かに20代や30代を過ごすことはないでしょう。

 20代や30代の読者で、20万~30万円ほどの月収から親に5万~6万円仕送りしている人はほとんどいないのではないでしょうか。だとすれば、自分が親になって老後を迎えたときも同じです。子どもから老後の仕送りをしてもらうことは、あきらめなければなりません。

 自分の老後が苦しいことが分かった場合、子どもに奨学金を取らせる必要が出てきます。そのときに決断しなければならないのは、老後の貯金が1000万円ありながら、子どもの大学の学費約700万円の一部を奨学金にするような選択です。

 米国のドラマなどをみるとセレブの子どもでも、学費はほとんど援助されず、将来の自分の稼ぎから返済する奨学金を利用するのが一般的です。優秀な人には返済不要の奨学金のチャンスがあり、少ない枠を巡る悲喜こもごもがドラマのエピソードとして紹介されています。

 「子の学費を全部親が出すのは当たり前」は戦後50~60年間くらいの日本のルールです。絶対普遍ではありません。自分の老後と子どもの学費負担能力を天秤にかけ、冷静な判断をする時代が来たのではないかと思います。

 例えば子どもに対して「お前に奨学金を取ってもらい将来返済させるが、自分の老後について負担は求めない」と説明して、入学してもらってはどうでしょうか。子どもとお金の話をしない親が多いのですが、負担の重さやマネープラン全体の意義を説明できれば、子どもは奨学金の必要性を納得するでしょう。

■老後に余裕があれば、子どもに奨学金返済分を渡せばよい

 実際に定年退職を迎え、思った以上に資産があった場合(持ち株会の株式売却益が過去最高値で売り抜けられた、退職金の増額改定後に退職日が到来したなどのラッキーがあった、個人資産で持っていた株価がアベノミクスパート2で2倍になった、など)も考えられます。

 こうした場合は老後に支障がない資産を確保できたことを慎重にチェックしたうえで、子どもの奨学金を一括返済すればいいのです。子どもは喜びますし、介護の問題が生じたら親身に手伝ってくれるでしょう。

 まだ就職もしていない子どもに自分の老後を委ねるようでは「バラ色老後」とはいえません。もらえるかどうか分からない子どもの仕送りがなければ老後の豊かさが手に入らないようなマネープランではなく、「自分の老後の豊かさは自分でしっかりためる」ことがバラ色老後につながるでしょう。子どもはまだこれから、という夫婦は一度、自分たちの将来像を話し合ってみてほしいと思います。

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