2014年8月19日 日経新聞

 今月のテーマは「転職」です。転職によるキャリアアップでバラ色老後を引き寄せるきっかけをつかもうとしています。今週は具体的な転職活動の方法をまとめます。まだ転職活動をしていない人ほど、じっくり読んで今後の参考にしてください。

 さて、転職活動についての最初のアドバイスは「可能な限り、会社を辞めずに行うこと」です。転職未経験者ほど、まず会社を辞めてから転職活動をするものだと考えてしまいがちです。今働いている会社に対する義理立ての感情が働くからでしょう。

■辞表提出は「いい会社が見つかってから」

 しかし、この順番だと雇用保険はすぐもらえません。自己都合で会社を辞めた人が雇用保険をもらえるのは3カ月後(プラス7日)だからです。つまり3カ月は無収入で過ごすことになります。

 3カ月分の生活費があれば「離職→転職活動→再就職」でもいいのですが、避けられるなら避けたほうがいい出費ですし、その後、雇用保険をもらい始めたとしても、支給が終わる日までに転職先を見つけなければならないプレッシャーにおびえながら就活することになります。やはり得ではありません。

 転職活動は基本的に「在職中に転職活動を実施、いい会社がみつかったらようやく辞表を出す」でいいのです。逆に言えば「今よりいい条件が見つからない間は辞めない」というカードを残しておくためにも働きながら就職活動すべきです。

 もちろん、就業時間に抜け出して他社の面接を受けるのはNGです。有給を取るなり病欠にするなり(本当はダメですが有給を取らせてくれない場合は仮病を使えばいい)、オフの時間を作って面接を受けにいきましょう。相談すれば業務時間外に面接時間をセットしてくれることもあります。

 とにかく、会社に辞表を出すのはギリギリまで後回しにするのが転職の基本だと考えてください。

■同業他社へシフトか異業種へ飛び込むか考える

 次に考えてみたいのは「同業他社」か「異業種」かです。同じ仕事の経験が生かされるという点では同業他社が無難ですが、転職に当たって会社のノウハウや秘密情報を同業他社に売ることはNGです(禁止されていることがほとんど)。そういう手みやげを捨ててもなお、自分自身を同業他社が欲しがってくれるだけの能力を持たなければなりません。

 もちろん、業界の基礎知識がある人材はそうでない人材より高く評価されるので、同業他社への転職はチャンスがあります。資格や経験が必要な業界などはフル活用して転職活動に臨みましょう。例えば1級建築士の資格がある人がわざわざ食品メーカーの開発に飛び込むのは大変ですから、素直に建築系の他社を探せばいいわけです。

 あえて異業種に飛び込む方法もあります。「同じ職種」を意識した転職活動です。「総務・人事」「財務」「経営企画」のような職種で能力を磨いた場合は、異業種でも「仕事」は同じなので飛び込めるからです。

 ある業種の景気が傾いている場合、同業他社に転職しても年収が上がらない可能性があります。こういう場合は「同じ職種」で異業種に飛び込むことで年収がアップする可能性がある、というわけです。

 なんとなく企業探しをするのではなく、まずは「同業他社」ねらいか「異業種で同じ職種」を目指すか考えてみましょう。

■転職紹介会社に過信は禁物だが使えるだけ使う

 「転職」のキーワードで検索したことがある人は、転職情報を提供する会社がいくつかあることに気がつきます。

 企業のホームページに「転職募集」のような案内はあまりありません。新卒と違って募集人数も少なく、採用にかけるリソースは多くないのに即戦力が期待されているため、公募よりも人材を紹介してくれる会社が重宝されているからです。
 転職紹介会社は基本的にあなたからお金を取りませんので(あなたの転職先の会社からフィーを受け取る仕組み)、使えるだけ利用するといいでしょう。自分のキャリアや能力を登録し、希望に合った求人の紹介を待つ仕組みです。非公開の転職案件などを持っていることもあります。

 ただし、頼めば年収を大幅にアップしてもらえるという過信は禁物です。紹介会社もあなたの能力を実態以上に売り込んでくれるわけではないのです。

 転職では本人が諸条件を交渉する難しさがあります。「年収をあと20万円ほどアップして欲しい」のような交渉は直接人事部と個人が行うより、エージェントを間に立てるほうが効率的です。転職紹介会社を使った採用が本決まりになったら、採用条件の調整を行う際にフル活用するといいでしょう。

■会社の外で「転職したい」と声を上げると良縁が舞い込むことも

 ところで、転職は紹介会社だけが情報を握っているわけではありません。「知人の知人」から縁がつながることもあります。米国のある調査で「知人の知人」は有力な転職実現先だと聞いたことがあります。

 あなたの転職希望を知った知人が、あなたを別の知人に紹介してくれると「知人の知人の会社」に就職することになります。知人が顔をつないでくれた場合、面接が最初から円満に進む可能性もあります。相手の会社もある程度、人となりが分かる人材が採用できる安心感があるわけです。

 仲が良くても、知人が自分の会社にあなたを推薦する場合、身びいきしてしまう可能性がありますし、うまくいかないと知人の職場内での立場がぐらつくため、「知人の会社」は意外に入りにくいものです。その意味でも「知人の知人」の会社がいいのです。

 転職したいと考えているなら、「どこかいい会社があったら紹介してください」と周囲に声を掛けてみるのは一考の価値ありです。ただし「職場内の知人」に声を掛けてはいけません。また、実名でやっているSNSで発言すると今の職場に分かりますから、これもNGです。同窓会など直接会話できる場で、声をあげてはどうでしょうか。

 転職は、すっと決まるときとなかなか決まらないときがあります。後者の場合は焦らないことが肝心です。のんびり続けるか、しばらくあいだを開けてるといいでしょう。そのためにもやはり「会社を辞めずに」転職活動をしてください。

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