2014年9月16日 日経新聞

 強引な商品の売りつけやえたいの知れない投資商品の被害に遭う高齢者が増えている。高齢者だけの世帯の増加で、悪質業者が標的にしている形だ。被害を防ぐために本人や家族ができることは何か。

金銭被害を防ぐには法律の専門家らの助言も大切
画像の拡大

金銭被害を防ぐには法律の専門家らの助言も大切

 「ご主人のためにも改修すべきですよ」。テコでも動かない住宅リフォームの訪問販売業者を前に、専業主婦のAさん(愛知県在住、78)は困り果てていた。

 Aさんの夫は脳梗塞で入院中。息子は静岡県に住んでおり目下一人暮らしだ。そこに言葉巧みに訪問販売業者が近づいてきた。話を熱心に聞いてくれたので「つい気を許してしまったのがいけなかった」とAさんは反省する。

 「夫が間もなく退院する」と話すと、おもむろに介護用設備の購入も含めたリフォームを勧めてきた。見積書を見ると数百万円と予想外の金額。内容の詳しい説明を求めたが、簡単な説明をするばかりで、強引な勧誘する。

 Aさんは契約問題に詳しい司法書士の船橋幹男氏に相談。代わって内容の説明を受けた船橋さんによると、とてもまっとうな業者ではなかったという。自宅に介護用設備を取り付けたり改修したりする費用については、介護保険の助成や市区町村からの支援が得られる場合があるが、「その説明は一切なく設備を高く売りつけることだけを考えているのは明白だった」(船橋氏)。取引は断ったという。


□   □


 高額な商品購入契約やえたいの知れない投資商品で、金銭的な被害を受ける高齢者は増えている。

 国民生活センターによると商品・サービスの契約に絡むトラブルを相談する消費生活相談の件数は2013年度に約93万5千件と、ピークの04年度以来9年ぶりに増加に転じた。中でも70歳以上の相談割合は約22%と増加の一途をたどる。60歳以上が全体の40%弱を占める。

 高齢者の被害はパターン化できる。健康食品や布団など高額な商品を自宅に押しかけて買わせられたり、注文した覚えのない商品が送られてきたりといったケースが多い。

 投資被害も目立つ。個人金融資産は1500兆円以上あり、その60%以上を60歳以上の高齢者が保有する。「悪質業者はそこに的を絞っている」(消費者問題に詳しい弁護士の大迫恵美子氏)という。

 新手の手口が「劇場型勧誘」と呼ばれるもの。複数の人間が役割を分担し高齢者に接近し金をだまし取るものだ。

 例えば「有望な未公開株」や「高利回りが見込める社債やファンド」のパンフレットを、まず自宅に郵送する。これだけでは高齢者も関心を持たないが、その後に仲間の一人が「お金は出すから、自分の代わりにあなたの名義で買わせてくれ」と電話で接触をしてくる。「自分がお金を払うのではないから」と引き受けると、数日後に一味が出資先の会社を称し「出資金の一部が払い込まれていない。使いを出すので渡してほしい」と電話連絡してくる。多少の負い目を感じている高齢者には、大胆にも自宅まで尋ねてきた一味にお金を渡してしまう人が少なくない。


□   □


 被害が増加しているのは高齢者だけで暮らす世帯が増えていることもある。高齢社会白書によると65歳以上の高齢者のいる世帯数(2093万世帯)のうち高齢者単独世帯、夫婦のみの世帯は半数を超える。確かに離れて暮らしていると、子どもも日常的に注意を払えないため、悪質業者の接近を防ぐのは困難だ。

 もちろん、子が同居しているからといって被害を防げるとも限らない。「高齢者が自分の判断に自信を持つと、家族の助言を聞き入れないケースもよくある」と弁護士で東京経済大学教授の村千鶴子氏は話す。「現役時代に仕事をバリバリこなした人ほど危ない」(村氏)。元商社マンが国外の投資まがいの商品でだまされたケースもある。

 被害を防ぐにはどうするか。まず高齢者自身が注意すべきこととしては「ほめたり、甘いことを言ったりして近づいてくる人を警戒すること」(弁護士の荒井哲朗氏)だ。高齢になると交際範囲が限られ、他人とコミュニケーションをする機会が減ってくる。だから「たまに他人に親切にされたり話をよく聞いてくれたりする人に会うと気を許しがち」(荒井氏)。

 経験を過信しないことも必要だろう。村氏は「自分が知らないことはよく調べてみる。例えば業者がまともな企業か商業登記などで調べることは大切」と助言する。

 家族はどうしたらいいか。「こまめに連絡をとる。高齢者の支出明細を定期的にチェックして、支払いがかさんでいるものについては事情を聞いたりすることも最低限必要」(船橋氏)だろう。

 もっとも「悪質業者は常に最先端の商品・サービスを勧める傾向がある」(村氏)。家族がチェックしてもわからないケースも多い。その場合は司法書士や弁護士といった契約、法律の専門家や地元の消費生活センターなどに相談することが欠かせない。

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック