2014年9月25日 日経新聞

 東京都練馬区の光が丘第三アパートに8月、救急車が2度駆けつけた。玄関で倒れた男性、室内で熱中症にかかり動けなくなった女性。いずれも高齢の一人暮らし。巡回に来た住民の119番で命を取り留めたが、自治会長の小山謙一(72)は「もし気づかずにいたら……」と背筋が凍った。

■6万人が単身


人口減少地図[新宿区]
東京都内でも高齢者の比率は拡大している。(クリックすると「人口減少地図」に移動します)

 苦い記憶がある。3年前、独居の高齢男性が亡くなっているのに死後数週間、気づかなかった。「団地がスラム化しかねない」。危機感を抱いた小山は住民の有志が高齢者の安否を毎日確認する仕組みを昨年導入。住民同士がつながるための無料喫茶も立ち上げた。それでも孤独死を防げるか、不安は尽きない。

 首都に忍び寄る「老い」。約23万世帯ある都営住宅は入居名義人の6割は65歳以上。約6万人が単身だ。東京都監察医務院の集計では、単身で自宅で昨年亡くなった23区内の高齢者は2869件。10年で倍に増えた。

 2010年に20%だった東京の65歳以上の割合は、25年に約25%まで跳ね上がる。「地縁や血縁の薄れた東京は高齢化がより重くのしかかる」(北九州市立大学教授の楢原真二)。古い団地は65歳以上が5割を超す棟もある。都心にあっても限界集落と変わらない。

 介護への対応も手探りだ。都内に住む75歳以上は25年に197万人になる。15年間で島根県の人口に匹敵する74万人もの後期高齢者が増える計算だ。親の介護で仕事に支障をきたす40~50歳代が続出しかねない。


■若い世代と混住


 危機を防ぐには、新たな支え合いの仕組みが要る。高齢者支援を担うNPO法人「人と人をつなぐ会」はミニ保険会社のメモリード・ライフ(東京)と組み、一人暮らしの高齢者のリスクを補償する保険の取り扱いを始めた。高齢者世帯を見守り、遺品整理や葬儀手配も引き受ける。NPO会長の本庄有由(76)は「住民の善意に頼る仕組みでは限界がある」と話す。

 品川区は若い世代と高齢者の「混住」をつくり出そうとしている。高齢化が著しい八潮地区につくった「住み替え相談センター」を拠点に、高齢者向け住宅を若年層に紹介する。空いた住戸に若い世代を呼び込み、地域に老若の支え合いを創る狙いだ。ただ都内だけで高齢者のケアを完結させるのは限界もある。

 杉並区は静岡県南伊豆町に特別養護老人ホームをつくり、区民を優先的に入所させる構想を進める。特養に入れない人が約2千人いるが、区内では用地が確保できず整備が進まないからだ。

 特養は寝たきりや認知症など重度の人が対象。それだけに本人の意に反して住み慣れた地を離れる「うば捨て」の懸念も強く、国は移住型に慎重だ。だが特養ができれば人口減が続く南伊豆町にも雇用が生まれ、家族が町を訪れる利点がある。

 「東京は周辺自治体と協力しないと介護の将来を描けない」。日本創成会議座長の増田寛也元総務相は話す。(敬称略)

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