2014年11月9日 日経新聞

 ある調査によると、眠りの悩みを抱える人は今や9割に達するそうです。スッキリ眠れないのは、もしかすると「眠りのしくみ」がうまく働いていないからかもしれません。眠りのメカニズムを調べていくと、「睡眠の質」を決めるカギは、意外なところにありました。

 よく眠るのは健康の基本だけれど、実際の生活となると、睡眠はとかく軽く扱われがちだ。仕事が立て込んだり、見たいテレビ番組があったりすると、しわ寄せはたいてい睡眠時間にやって来る。

 それは、睡眠に“非生産的”というイメージがあるからかもしれない。「おやすみ」という言葉一つをとっても、「休む」という言葉は「働く」や「遊ぶ」より価値が低いような印象がある。

 でも本当のところ、睡眠は単なるお休み時間なのだろうか?

 「そんなことはありません。睡眠は、体の維持に不可欠な機能が活発に働く時間。よく眠っていないと、これらの働きが不足するのです」。自治医科大学講師の西多昌規さんはこう力説する。


(イラスト:江田ななえ、以下同)
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(イラスト:江田ななえ、以下同)


■美肌づくりのホルモンや脂肪燃焼のホルモンが出る

 睡眠の機能は、体への作用と脳への作用に分けて考えると理解しやすい。体への作用で活躍するのは、睡眠中に分泌されるホルモンだ。まず、寝入った直後から3時間ぐらいの間にどっと出てくるのが「成長ホルモン」。その名の通り、子どもの体内では、体を育てる働きをする。大人にとっては体の「修復」を担ってくれるホルモンで、「特に、細胞分裂が盛んな肌の新陳代謝を支えます。美肌づくりに欠かせません」。

 夜明けが近づくとぐーっと増えるのが「コルチゾール」。このホルモンには、体脂肪を分解してブドウ糖に変える働きがある。これで血糖値が高まるので、目覚めたときから体も頭も働く。「脂肪燃焼」+「目覚めスッキリ」という2つの願いをいっぺんにやってくれるのである。

 一方、脳への作用が「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」。眠っている間に、この2種類の睡眠が交互に表れ、日中の活動で疲労がたまった脳をメンテナンスする。ノンレム睡眠の間は脳の活動が低下するので、従来は脳の休息時間と考えられてきたが、「最新の研究では、このときに記憶が固定化するともいわれています。単に休んでいるわけではないようです」。

 「体の修復」「脂肪燃焼」「目覚めの準備」そして「記憶」。睡眠中の体はいろんなことをやっている。こんな働きがまっとうされてこそ、「よく眠れた」と実感できるのだ。

■朝日を浴びるのが薬よりも効果的

 西多さんによると、睡眠の機能を特に左右するのは最初の2~3時間、成長ホルモンが出て深いノンレム睡眠が表れる時間帯だという。「睡眠時間が短くても、最初の深い眠りがきちんと取れていれば、十分に質の高い睡眠といえます」。一方、うつ病の人などでは、睡眠時間が長くても、最初の深い眠りがはっきりしないことが多いという。そういう状態では眠った気がしないし、肌も荒れやすいようだ。
 それでは、最初の3時間を充実させるには何が大事なのだろう?「一番いいのは、朝日を浴びること。どんな薬よりも、これが一番効きます」


[左]眠る直前に光を見つめると、体内時計は「今は朝? 夜?」と混乱してしまう。すると深い眠りが得られにくい。なかなか寝つけなかったり、眠れても朝のスッキリ感が少ない。
[右]睡眠の質を決める最大のカギは朝にあり。朝日を浴びると、体内時計は「今が朝」とリセットされる。そこから12時間ほどたつと体内時計が夜になるので、自然にストンと深く眠れる。
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[左]眠る直前に光を見つめると、体内時計は「今は朝? 夜?」と混乱してしまう。すると深い眠りが得られにくい。なかなか寝つけなかったり、眠れても朝のスッキリ感が少ない。
[右]睡眠の質を決める最大のカギは朝にあり。朝日を浴びると、体内時計は「今が朝」とリセットされる。そこから12時間ほどたつと体内時計が夜になるので、自然にストンと深く眠れる。


 睡眠は、体内時計と連動している。体の中の時計が「今は朝」「今は夜」とクリアに時を刻んでいることが、質の高い睡眠を得るために何よりも重要。そして、1日の中で、体内時計をリセットする最大のチャンスが、朝の光なのだ。

 「時差ボケになると時計が狂い、深い眠りが表れにくくなります。海外に行くと、なかなかスッキリ眠れないでしょう?」

 逆に、夜遅くに強い光を浴びるのは最悪。「夜中までパソコンを見ているような生活は、てきめんに眠りの質を下げます」

 眠りの問題で朝がカギを握るっていうのは、意外な盲点かも。早速やってみよう。

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