2014年11月15日 東洋経済

「和民」「わたみん家」などの居酒屋チェーンを運営するワタミが、2015年3月までに102店の閉鎖を決めた。もともと60店の撤退を計画していたが、2014年9月中間決算で41億円の最終赤字となるなど業績不振が止まらず、全体の約15%に当たる大量閉鎖に発展した。かつて「不況に強い」とされていた居酒屋チェーンの雄、ワタミはなぜここまで凋落してしまったのか。

引き金となったのはみずからが仕掛けた価格競争だ。

話は約5年前にさかのぼる。2008年8月以降、居酒屋の客数は前年割れが続いていた(日本フードサービス協会調べ)。その事態を打開すべく2009年に「生ビールの100円値下げ」を打ち出したのが、ほかならぬワタミだった。

価格競争で負のスパイラルに

これを機に、居酒屋チェーンは値下げ合戦へと駆り立てられる。10円単位での値下げ、均一価格店の登場。その代償は大きかった。価格を下げるために、人件費を削る。そうするとサービス力が弱くなる。お客の利用動機が「安さ」に絞られると、10円でも安いお店が選ばれる。居酒屋チェーンは負のスパイラルにはまり、仕掛けたワタミも巻き込まれてしまった。

そこを顧客志向の変化が襲う。

2011年3月の東日本大震災以降、食事やお酒を楽しむ際にとにかく安さを求める層と、付加価値を求める層に二分化された。安さを求める層はコンビニで買い求めた食品やお酒を自宅で飲む「宅飲み」や立ち飲み店、ファミリーレストランなどで十分だと考え、ただ飲んで食べるだけでなく仲間との団らんをはじめとする付加価値を求める層は、回数を減らしても少しぜいたくなお店へ出かける。

価格競争に陥っていた居酒屋チェーン各社は、この真ん中で宙ぶらりんとなってしまった。こうなると居酒屋というジャンルがもはや曖昧で、お酒を飲むシーンやスタイルが、細分化されたのだ。逆にコンビニや立ち飲み店、ファミレスはこうした需要に対応するべく、さまざまな手を打ち成果を挙げた。居酒屋は価格の安さではもう勝てなくなった。ただ、いったん下げてしまった価格を、上げてもなかなか消費者は受け入れてくれない。

ワタミも手をこまぬいていたワケではない。今年(2014年)1月にはメニューの半分を刷新。専門店で提供されるレベルとクオリティに自信はあったようだが、この策は結果につながらなかった。3月には追加施策として、単品価格の見直しを敢行。生ビールやお通しの価格を下げ、お値打ち感を打ち出した。しかしながら、これらも不発に終わった。足元では花畑牧場や広島県などとのコラボメニューを打ち出すなど、さまざまな取り組みを実施しているが、即効性があるかどうかは微妙だ。

「過労自殺」問題が追い打ち

加えて、ワタミの不振に追い打ちをかけたのは、「過労自殺」問題だ。2008年に自殺した元ワタミ社員の両親が損害賠償を求めてワタミを提訴。これをきっかけにワタミは「ブラック企業」の代名詞として扱われ、それが客足にも少なからず影響を与えているとみられる。ブランドを創るのには時間がかかるが、壊れる時は一瞬。ワタミはこれまでコツコツと創り上げた基盤を崩してしまった。

筆者は10年ほど前の、就職活動時に外食産業に絞って選考を受けていた。そのとき1社目の会社説明会がワタミだった。当時はこれから伸びる企業として注目されていた。12月という当時としてはかなり早い時期の選考だったが、学生は会場いっぱいに集まっていた。

印象的だったのが選考方法。「今、ワタミで働きたいという決断が出来る人は挙手して下さい。この場で内定を出します」。筆者はまだ1社目ということもあり、挙手する勇気はなかったが、それでも数人がその場で挙手し、内定を受けていた。やる気があれば積極的に採用する。まさに勢いを感じた出来事だった。その後、選考段階で辞退したが、企業研究する中で、料理は美味しいし、サービスも良い、コストパフォーマンスの良いお店という印象は強かった。

メニューや価格の見直すぐらいでは、今の苦境を脱するのは難しいだろう。介護や食事の宅配など、これから伸びていくと期待されるビジネスを支えていくためにも、大胆かつ抜本的な戦略の見直しが求められている。

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