2014年11月17日 日経新聞

 このコラムでは健康的かつ効率的にお腹を凹ます方法や、ダイエットが失敗してしまうメカニズムなどを取り上げてきましたが、今回は「腰痛」についてお話しさせていただければと思います。

 ビジネスパーソンの方々であれば腰痛に悩まされている方も多いでしょうし、「ときどき腰が痛くなる」「ギックリ腰になったことがある」という方を含めると、ほとんどの方が腰痛を経験したことがあるのではないでしょうか。

 厚生労働省研究班の調査によると、腰痛持ちの方は全国に2800万人おり、40~60代の約4割が悩みを抱えているそうです。

 そんな日本人の国民病ともいうべき腰痛ですが、実はそのうちの85%が「原因不明」ということをご存じでしょうか。15%は重篤な脊椎病変、内臓由来の腰痛、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄などで画像診断や精密検査によって原因を特定できますが、それ以外は原因が分からないというわけです。


ストレスで腰痛になる!?

 「そんなわけがない!」と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。原因が分からない、病名がつかないというのは不安かもしれません。

 今、注目されているのが「脳」と「腰痛」の意外な関係です。福島県立医科大学が原因不明の腰痛患者の脳血流量を調べたところ、なんと約70%の腰痛患者が健康な人に比べて脳血流量が少なかったのです。言い換えると、脳の働きが低下していたということですね。

 これについて米国のノースウエスタン大学がさらに詳しく調べ、特に活動が低下しているのは「側坐核(そくざかく)」という部分であることが分かってきました。

 側坐核は痛みの信号が脳に届いたときに、鎮痛物質を出すように命令を出す場所だと考えられています。その側坐核の働きが慢性的なストレスを受けることで低下し、痛みが抑えられなくなるというのです。

 ただ「あなたの腰痛はストレスによるものですね」と言われると、「なんだか納得できない」「ほかに原因があるに違いない」と思われる方も多いかもしれません。しかし、ストレスがたまると体に悪影響が出るということはみなさんも体験したことがあるのではないでしょうか。

 ストレスが体に及ぼす影響はいろいろなものがあります。心拍数が高まり、血圧が上昇する。呼吸が浅くなり、早くなる。血液中にアドレナリンなどのホルモンが分泌される。肝臓の蓄積糖分が血液中に放出される。筋肉が緊張する。末端部分への血行が減少して手足が冷たくなる。発汗が増進する。消化器への血行が著しく低下する。といったことが挙げられ、この結果、高血圧・不整脈、呼吸不全・喘息、胃腸障害・胃潰瘍、肥満・糖尿病、偏頭痛・視力異常、不安障害・不眠などを引き起こします。

 ビジネスパーソンの方々であれば、ストレスによる胃腸障害や不眠などは経験したことがあるのではないでしょうか。それらと同じように、腰痛も心因性である可能性が高いということなのです。

腰痛の治療に「抗うつ薬」!?

 さらに厚生労働省が発表しているデータによると、慢性的な疼痛の保有率は40代の女性が圧倒的に多いことが分かります。

 特に多いのが、大都市に住み、専門職・事務職・技術職・デスクワーク・パートなどの職業に就いている方々です。もしも筋骨格系が原因で疼痛が起きているのであれば、筋力が低下している高齢者のほうが多くなるはずです。このようなデータからも、腰痛はストレス性である可能性が高いことが分かっていただけるのではないでしょうか。

 また、日本整形外科学会と日本腰痛学会が監修した「腰痛診療ガイドライン」によると、3カ月以上続く腰痛には「抗炎症薬」「鎮痛薬」に加えて「抗不安薬」「抗うつ薬」が推奨されています。

 そしてこれもまた意外だと思われるかもしれませんが、腰痛診療ガイドラインでは「マッサージやはり治療は慢性腰痛に対して保存的治療法よりも効果があるとはいえない」とされています。さらに「牽引療法」は腰痛に対して有効であるエビデンスは不足していると発表しています。

 つまり、腰痛の原因が画像診断や精密検査で特定されなかった場合、牽引療法やマッサージよりもストレスを取り除くほうが有効であるケースが多いということなのです。

 次回は原因不明の腰痛をお持ちの方に対し、私がパーソナルトレーナーとしてどのようなアドバイスをしているかをお話ししたいと思います。

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