高倉健氏や吉永小百合氏など、日本映画界を長年にわたり支えるスターとの現場も経験した。

 人間には「男、女、スター」の3種類がいる、と思っている。それほど、スター俳優の存在感はずばぬけている。1999年、「鉄道員(ぽっぽや)」で高倉健さんと初めて同じ撮影現場で仕事をした。高倉さんが東映作品に出演するのは19年ぶり。そのオーラは画面で感じるものをはるかにしのぎ、ただただ圧倒された。

 毎晩、撮影が終わった後、翌日の予定をホテルの部屋に持って行く時はずいぶん緊張した。雪が降り積もる極寒の北海道でのロケ終了後、高倉さんが「(緊張感がある)映画の現場が好きなんだ」と話していたのが心に残る。

 自身を厳しく律して撮影に臨む姿勢は知られている。「鉄道員」に続き、ご一緒した「ホタル」(2001年公開)は生き残った特攻隊員を描いた映画だ。高倉さんが、かつて同じ隊に所属した戦友の墓参りをするシーンがある。設定では桜が咲き乱れる季節だが、実際のロケは、雪が舞う青森の八甲田で行われた。

 除雪しながらの撮影のため、ワンカットに2時間以上かかった。その間、高倉さんは立ったまま現場で待機していた。座ることも暖房が利いた場所で待つこともしない。時折、共演した子役が冷えないか言葉をかけながら、スタッフの動きを、じっと見ていらした。その存在感だけで現場が締まった。
吉永小百合氏とは、演技事務を務めた「天国の大罪」(92年公開)以降、今年10月公開の「ふしぎな岬の物語」まで多くの東映作品で共に仕事をした。

 驚くほど勉強熱心な方で「まぼろしの邪馬台国」(08年)では、邪馬台国に関わる資料をすべて覚えて撮影に臨まれた。作品のためなら、という姿勢は常に一貫している。スターの風格は、美しい容姿や演技力だけではない。労を惜しまず、真摯に仕事に打ち込む姿勢も大きな要素なのだと感じる。

 「ふしぎな岬の物語」では企画者として、メーンスタッフにも入っていただいた。脚本段階から熱心に参加され、台本に載せる俳優の名前の順番まで確認をお願いした。「福ちゃんの方がベテランじゃない」とおっしゃりながらも、面倒がらずにすべてに目を通してくださった。ラッシュも毎回顔を出して確認され、熱心さには頭が下がるばかりだった。

 若手俳優は畏怖心もあるだろうが、偉大なる先輩と同じ現場に立つべきだと思っている。若者だけの群像劇なら、若くても主役級を演じることもあるだろう。

 しかし、たとえ脇役であっても、ベテランスターと同じ舞台に立つと見えない磁力が働き、目と目を合わせて演技をしているだけで実力が引きあげられる。迫力を目の当たりにして知らないうちに力も華も付く。スター俳優とは不思議な力を持った人たちだ。


[2014/08/27/日経産業新聞]

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