2015年1月2日 日経新聞

 なぜ今、日本企業は社員の働き方を進化させなければならないのか。ひとつは少子高齢化やグローバル化など外部環境の変化。もうひとつは職場の主役である「働く人々」の意識が変わったためだ。若者は常に時代の変化を先取りする。若い世代をうまく生かしている企業には、未来を読むヒントがある。

■若者は「政治」「消費・サブカル」、そして「働き方」へ


企業は、若者の期待に応じているのだろうか(合同就職面接会で就職活動について相談する大学生ら、東京都新宿区)
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企業は、若者の期待に応じているのだろうか(合同就職面接会で就職活動について相談する大学生ら、東京都新宿区)

 IT(情報技術)によるデザインやアート、店舗開発や販促などを手がけるチームラボ(東京・文京)という会社がある。猪子寿之社長が東大卒業と同時に設立した会社だ。社員数は350人。管理職はいない。案件ごとに社員が自由にチームを組む。

 採用もユニークだ。例えば、まず社員に「部活」を許す。プロ・アマが混在するデジタル工作の展示会などに面白い作品を出品する。参加者同士が仲良くなる。こうして「口下手だが才能のある学生」を発掘する。

 2014年は「卒業制作の送付がエントリーシート代わり」という新卒採用もした。実力やセンスを理解して採用するわけだ。入社後は新規プロジェクト立ち上げも自由。腕に自信のある若者に人気が出るのは当然だ。

 戦後、若者は政治活動で自己表現した。バブル期はとがった消費やサブカルチャーが上の世代への異議申し立てになった。90年代以降、若者の関心は「働き方」に移った。どう働くかが自己表現であり生き方そのもの。そういう期待に企業や職場は応じているか。

 若者は今、企業から矛盾したメッセージを受け取っている。「即戦力になれ。労働力流動化だ。市場価値を上げろ」。そこで張り切って自分の成長につながる仕事を希望すれば、「10年は修業だ。とにかく命令に従え。夢など語るな」と言われる。

 就活でも、人物本位と言いつつ大学名と、エントリーシートや面接のテクニック、通称「コミュ力」がものを言う。面接のテクニックを学び、インターンに通い、通学(あるいは勤め)のかたわら、役に立つかどうかも分からない資格取得に走る。

 「私たちは『ゆとり世代』ではなく『あせり世代』なんです」――。ある女性の言葉は、現在20代となったゆとり世代の戸惑いを映し出している。
 若者たちの間に大企業志向と、社会起業家やITなどのベンチャー志向が入り交じることも矛盾はない。どちらも安定志向なのだ。ベンチャーを選ぶ人は、「大企業に入って何のスキルも身につかないまま年を重ねるより、小さな組織で成長する方が低リスクだ」と感じているといえる。

 若者たちの意識の変化は目まぐるしい。経営者に自覚はあるか。

■巨艦・日立が元気になった理由

 チームラボは今の時代に解の1つを示している。素顔で採用し、縦方向の邪魔がない。スピンオフして起業する人も多いが、会社との関係は続く。


会社という特殊な世界に若者をとじ込める時代は終わった(海岸のがれきを片付けるボランティア、2011年、宮城県で)
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会社という特殊な世界に若者をとじ込める時代は終わった(海岸のがれきを片付けるボランティア、2011年、宮城県で)

 大手企業ではまねは難しいか。もう一つの参考例に英コンサルティング大手、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)を挙げたい。カギは「社会とのつながり」だ。

 最近建設した新本社に社会起業家向けオフィスとレストランを併設。店では失業者を雇い、スキルを身につけさせ送り出す。社員はボランティアで社会起業家を指導し、失業者に履歴書の書き方を教える。全世界的に優秀な若者ほど社会活動に関心が高く、会社としても社会貢献に参加していることを誇らしく思うのだ、と人事部のスタッフは語る。

 スキルを生かせ、社外の文化が刺激になる。そして会社としては貧困層という新市場に近づく道が開けるのだ。

 業績不振から急回復した日立製作所の原動力も、社会課題を解決する「社会イノベーション」を軸にすると中西宏明社長(当時、現会長)が宣言したことが大きい。

 「社会イノベーションとは何ですか」。中西氏によると、当初は周りから、よく聞かれたという。社会をよくすることに自社の力を使う。そう宣言したことで、新市場が見え、社内も活性化した。

 会社という小宇宙に若者をとじ込め、社内の人間関係や特殊な価値観で染め上げる。そういう時代は終わった。

 日常的な外部人材との交流に始まり、転職、出戻り、自在な連携など、コースやスタンスを自由に選ぶ。社会の一員として働き、内外につながりを広げ、人間として成長する。

 そういう場とチャンスを企業は提供する。この姿勢で臨んでこそ、会社は若い社員に見捨てられなくなるのではないか。

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