2015年1月24日 日経新聞

 平日の夜、「たいきちマネー相談所」では鯛吉が1人で仕事をしています。突然ドアが開いて現れたのは藤志郎。「夕飯でもどう?」。2人は近くの居酒屋へと向かいました。

大学で金融を勉強中の初野新衣紗(はじめの・にいさ=上)と父の藤志郎(とうしろう=中左)、母の利子(りこ=中右)、隣に住むファイナンシャルプランナー・税理士の有賀鯛吉(ありが・たいきち=下)

大学で金融を勉強中の初野新衣紗(はじめの・にいさ=上)と父の藤志郎(とうしろう=中左)、母の利子(りこ=中右)、隣に住むファイナンシャルプランナー・税理士の有賀鯛吉(ありが・たいきち=下)


 とうしろう ほら、見てよ。新衣紗の成人式の写真。きれいだろう。我が娘とは思えない。

 たいきち うひゃー。見違えますね。この振り袖も、すごく良い物では。

 とうしろう お目が高いね。実はオヤジが金を出してくれてね。「かわいい孫娘のため」だってさ。しかし私は孫に着物を用意したりはできなさそうだ。シュン。

 たいきち どうしたんですか? 急に暗い顔して。

 とうしろう 年末の大掃除で、この「ねんきん定期便」を見つけたんだ。私がもらえる年金は思ったよりずっと少ない。妻に見つかったら「老後のために貯蓄よ」と言って小遣い減額は確実だ。見てよ、ほら。

 たいきち ちょっとお借りしますね。うーん、これを見る限り、特別少ないことはなさそうですが。

 とうしろう そうかい? これでは生活するのがやっとだよ。孫娘の振り袖どころか、お年玉すら渡せないかも。

 たいきち 心配し過ぎですよ。実際に夫婦で受け取る公的年金はもっと多いはずです。まず、このねんきん定期便に記載している金額は藤志郎さんの分だけ。定期便は世帯でなく、個人単位です。奥様の分は別にあります。

 とうしろう そうか、利子の分もあるのか。いくらなんだい?

 たいきち それは何とも……。例えば老齢基礎年金、いわゆる国民年金が満額なら年約77万円ですね。65歳から受け取れます。

 とうしろう おお、それは大きいな。

 たいきち 奥様は年下でしたよね。それなら藤志郎さんが年金を受け取り始めてから、奥様が65歳になるまでは配偶者加給年金が上乗せされます。いわば年金の家族手当で、年39万円ほどです。

 とうしろう 助かるね。妻が65歳になったら?

 たいきち ご本人の年金支給が始まるので加給年金はなくなります。65歳以降は振替加算という配偶者への上乗せがあるのですが、若い人ほど金額は少なく、1966年4月以降に生まれた人はゼロです。加給年金も振替加算もねんきん定期便では分からない給付です。

 とうしろう 残念。利子は対象ではなさそうだ。それにしても、人騒がせだな。ねんきん定期便というのは。


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 たいきち そんなことはありませんよ。藤志郎さんの年齢になると見込み額が気になると思いますが、年金の加入期間を確認することも重要です。

 とうしろう ああ、この上のほうに書いてあるやつね。

 たいきち 国民年金は最低25年間、つまり300カ月保険料を納めないと原則として受給資格がありません。消費税が10%に上がると同時に、受給資格は10年間の納付に短縮される予定でしたが、延期になっています。

 とうしろう 私は大丈夫だよね?

 たいきち 一般にずっと会社に勤めていた人は勤務先を通じて保険料を納めるので未納の心配はありません。むしろ奥様が心配です。会社に勤めている間は第2号被保険者、専業主婦の間は第3号、藤志郎さんが退職すると第1号と立場が変わります。その分、手続きを怠りやすいのです。

 とうしろう 保険料の未納があると、年金が減ると聞いた気がするが。

 たいきち 年金保険料を本来の20歳から60歳まで40年納めると満額を受け取れますが、未納期間1年につき受け取る年金は年2万円近く減ります。仮に5年間未納があって、65歳から90歳まで受給したとすると、満額との差額は単純計算で約250万円。だいぶ不利になりますね。

 とうしろう 急に心配になってきた。

 たいきち 65歳まで保険料を納付して加入期間を増やすことは可能です。今年9月までは過去10年分の保険料の未納分を払える制度もあります。

 とうしろう 未納期間はどうやって調べるんだい。

 たいきち 日本年金機構が運営する「ねんきんネット」なら、詳細が分かります。年金額についても、年金を受け取りながら働き続けるケースや、将来の収入額など様々な条件で試算できます。

 とうしろう 私はネットは苦手なんだ。

 たいきち そういう方は年金事務所に問い合わせるのが確実ですね。ご夫婦で行かれると、より正確な情報が分かるので老後の生活設計に役立ちますよ。

 とうしろう それはそうだが、利子が「年金が少ない」とか言って小遣いを減らしたらどうする?

 たいきち そうですか? 藤志郎さんには企業年金もあるじゃないですか。全体像が分かれば、奥様が安心して、お小遣いが増えるかも。

 とうしろう なるほど。増えた小遣いで株に投資して、ドカンと当てる。そうすれば老後は安泰だ。ようし、前祝いにもう1軒行こう。

 たいきち その前に年金事務所に行ってほしいんだよなあ。


■「国民年金、未納あれば満額に近づけよう」
 社会保険労務士・税理士 佐藤正明さん

 国民年金を満額で受け取る人は必ずしも多くはありません。厚生労働省によると2013年度の平均受給額は月5万4622円で、満額を約1万円下回ります。公的年金は生きている限り支払われるのが魅力。だれでも長生きする可能性があります。ねんきん定期便などで保険料の未納が分かったら、なるべくその分を納めて、満額に近づけるのを勧めます。
 公的年金には税制面でのメリットもあります。受け取る年金は一定額まで非課税で、保険料も課税所得から控除されます。保険料の納付状況は今すぐにでも確認しましょう。ねんきんネットなら自宅で調べることができます。事務手続きのミスで未納となっていたり、本人が納付したと勘違いをしていたりするケースは珍しくありません。時間がたつと、過去の勤め先などで事実を確認するのが難しくなります。

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