「週刊現代」2015年4月18日号

生きるためになんでもした

—高校卒業後は札幌短期大学を経て、北海学園大学に編入。アルバイトで生計を立て、居酒屋を回って債権回収をしていたというエピソードも紹介されています。

「え え。当時、高倉健や菅原文太の任侠映画が流行っていたので、それを真似て取り立てをしていました。実入りの良い商売で、友人と一緒に『不良債権ないです か』と居酒屋を回る日々でした。ですが、回収先の中にはスジの悪い人もいて、危険な思いもたくさんした。ナイフで切られたこともありましたよ。その傷は、 今でも残っています」

—その傷を見せてもらうことは?

「いやいや、それはいいでしょう(笑)」

—他に、どんなアルバイトをしていましたか。

「ビリヤードも得意で、一般人相手にわざと負けておいて、賭け金が上がったところで勝ちをかっさらうこともあった。

他にもスマートボールで稼ぎすぎて、店から出入り禁止を食らったことも。スマートボールで勝つ秘訣?台を持ち上げて、強引に玉を入れる。そうじゃなきゃ、当たりっこないよ(笑)」

これらのエピソードから浮かび上がってくるのは、とにかく目の前の日々を生き抜かなければともがく若き日の姿だ。別の高校同級生は、こう語る。

「似鳥君は、昔からじっくりと物事を考えるところがあった。何ができるか分からないが、自分で商売を興したいと話していました。それが今のニトリになっているんですから、驚きます。初志貫徹で頑固一徹なところが、彼の個性でしょう」

—大学卒業を機に就職した父親の会社を辞めて広告会社に入社し、その後23歳でニトリの前身「似鳥家具店」を立ち上げられました。創業当初から順風満帆だったんでしょうか。

「とんでもない。開業当初、売り上げは月40万円だった。なんとか2店舗目を出しても、近所に5倍ほどの大きさの家具店が建ってお客さんを取られてしまったり。これまで、倒産の危機を何度も経験していますよ」

話したくない「過去」も

似鳥社長は、あっけらかんとこう語る。4月いっぱい続く似鳥社長の「私の履歴書」だが、少し先回りして、その後の「履歴書」についても聞いてみた。

—創業当初と比べれば、現在のニトリの成長はまるで別の会社のようです。何か具体的な転機があったのですか。

「'72 年のアメリカ訪問ですね。たまたま家具業界向けのセミナーに参加し、ロサンゼルスに行ったんです。そこで、日本とアメリカの差を目の当たりにした。当時、 アメリカのチェーンストアで売っていたものは衣・食・住すべてが日本の3分の1の価格で販売されていました。しかもあらゆるものが、色やスタイルでコー ディネイトされていた。それを見て、『日本は貧しい国なんだ。日本人の生活を豊かにしなきゃいけない』と痛感したんです。それまでは行き当たりばったりで 生きてきた私にとって、人生が180度変わった衝撃的な経験だった」

似鳥社長は'07年に、母と弟妹から父親の遺産相続を 巡って訴えられている。裁判は'13年に似鳥社長の勝訴で幕を閉じているが、あれほどまでに大きな存在だった母と事を構えたことは、同氏の人生でも重要な 出来事だっただろう。だが、この問題について、似鳥社長は言葉少なだった。今後の連載で本人の口から語られることはあるのだろうか。

—では今後、ニトリをどう展開させていこうとお考えですか。

「私は『お前は社会人として生きていけない』とまで言われてきた。だけど、短所があるのが私の長所だったんです。

私は社員に『短所あるを喜び、長所なきを悲しめ』と言う。短所は、直そうとしても直るものじゃない。長所を探すうちに短所なんてカバーできるんです。今、ニトリは3000店、3兆円という、次の30年目標に向かって動き始めています」

—ご自身の半生を振り返り、今どのように思いますか。

「このような人生を送ってきたことで、徹底的な合理主義になった。自分自身が一生懸命働かなければ、成功を手にすることは絶対にできないということが骨身に沁みています。

私 の子供時代には、自分で使う日用品は、自分の稼いだおカネで買うというルールがありました。おカネはおふくろが管理していたので、自由には使えなかった。 いざモノを買うといっても、嗜好品や遊び道具は全部ダメ。一度だけ親を説得してグローブを買った時は、うれしかったな。

ですが、従兄のカメラがうらやましくてねだった時は、ダメでした。父親から『お前には分不相応だ』とピシャリ。父親はよく『人は身の丈にあったものを買うべきだ』と言っていた。

商売をはじめた頃も自家用車を買う際には、動きさえすればいいと中古の軽トラックを使っていました。今は頑丈だからという理由で、センチュリーに乗っていますが(笑)。

私がそんな性格だからか、ウチの娘も小学校の作文で好きな言葉を書けと言われて『拾う、もらう、タダ』と書いていた。ウチの家訓なんです(笑)」

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