最近の健康ブームが恐ろしいのは、私たちが毎日口にするものすべてを、「これは健康にいい」「これは健康に悪い」と、根拠もないのに信じ込むことである。

 たとえば、「長生きしたければ肉を食べるな」ということをそのまま実践して、はたして本当に長生きできるだろうか? 栄養とはバランスであって、どれか1つだけ選んで、そればかり食べる、あるいは食べないようなことをしたほうが、健康を害すのは言うまでもない。

 「フードファディズム」という言葉がある。これは、特定の食べものや栄養が健康と病気に与えると過大に信じることを言う。人間は、メディアや周囲の人間から、「これは身体にいい」と言われると、つい信じてしまう傾向がある。たとえそれが、科学的に立証されていなくとも、「私が健康なのは、〇〇のおかげ」と言われると、信じてしまう人は意外に多い。

 たとえば、テレビのワイドショーで紹介されただけで、スーパーから特定の食品が消えてしまったことがある。コンビニでは、さまざまな種類のサプリメントが棚に並べられている。また、テレビや雑誌では健康食品の宣伝が洪水のようにあふれている。「がんの予防に効く」「肝機能を助ける」「コレステロールを抑える」などと。

 こうしたことが、フードファディズムを助長させている。

 しかし、特定の食品、特定のサプリ、特定の健康食品だけで健康になることはありえない。

 例えば、「健康食品」といっても明確な定義と規定がない。「特定保健用食品」という言葉はあるが、法的には「健康食品」という定義は存在しない。したがって、販売業者は「健康によい」というイメージと体験談だけで宣伝・販売している。

 薬には、心理上の効果によって治癒が起きる「プラシーボ反応」という現象が存在する。つまり、ある人に効果があっても、別の人にも同じように効果があるとは言い切れないので、必ず偽薬を用いた「二重盲検法」という厳密な臨床試験が行われる。ところが、健康食品にはこうした試験がないので、単に食べても健康を害さないだけだ。

 ある特定の食べ物、栄養、サプリ、健康食品がどんなに優れた効果を持っていようと、それだけでは健康にはなれないのである。

 それにしても私が不思議なのは、健康志向の行き過ぎからか、食べ物を単に「健康にいい」だけで選ぶ人が増えたことだ。普通、食べ物は「おいしいかまずいか」で選ぶ。もちろん、産地表示や成分表示は大事だが、自分にとっておいしいものを食べていたほうが健康にはいいと、私は思う。

 和田秀樹氏の著書『「現役年齢」をのばす技術』(PHP新書)に、非常に面白いデータが載っている。フィンランドの労働衛生研究所が調べたところ、健康に関心のない人より気を使っている人のほうが検査数値が悪いというのだ。

 1200人の被験者を600人ずつ、砂糖や塩分を控えたばこやアルコールを制限したグループと、特別な指示がなく気ままに生活したグループの2つに分けて15年後に健康調査を行った。すると、後者の方が検査数値が軒並みよかったという。

 これは、食べ物にこだわる「健康オタク」の方がむしろ早死にしてしまうということだ。

 ■富家孝(ふけたかし) 医師・ジャーナリスト。1947年大阪生まれ。1972年慈恵医大卒。著書「医者しか知らない危険な話」(文芸春秋)ほか60冊以上。
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック